Re: 横浜の飲食店が起こした共同購入クーポンサイト経由のおせち料理販売のトラブル |
投稿者: 名無しさん 投稿日時: 2011/2/4 9:44 クーポンサイト、隆盛の陰にひそむ危うさ グルーポン「おせち騒動」は氷山の一角 「おせちのクーポンは、通常の審査基準でちゃんと審査をしたうえで販売した。500枚という販売枚数も、提供した店舗と合意のうえで決めた数字。(グルーポン・ジャパンが)勝手に決めて売るなんてことはあり得ない。しかし今回、店舗の生産能力までは見抜けなかった」――。 クーポン購入者から「中身がスカスカのおせちが届いた」として苦情が殺到し、正月からインターネット上やマスメディアをにぎわせた「おせち騒動」。クーポンを販売したグルーポン・ジャパン(東京・渋谷)の渡邉卓也執行役員は、好調な業績に水を差す失態に悔しさをにじませた。 「12月31日着、ワイン・シャンパンに合うお節33品、配送費込。定価2万1000円のところ、50%OFFの1万500円でご堪能いただけます!」。グルーポンのサイトでそう謳(うた)われていたが、ふたを開ければ食材がぎっしりと詰まった豪華な見本とは似ても似つかぬ中身。しかも、元日以降に遅配されたところもあり、購入者からは怒りの声が噴出した。 量や見た目もさることながら、「傷んでいた」「広告に記載されていた産地と違う」との声も。食品衛生法違反や日本農林規格(JAS)法違反などの疑いもあるとして横浜市が立ち入り検査に入り、さらに消費者庁や農林水産省も調査に乗り出す事態へと発展した。そして約1カ月後、グルーポンは一部の事実を認める。 ■「許容量以上のクーポンを提供」 1月29日、グルーポンは独自調査の結果、「2万1000円」とした定価の表示が不適切だったことと、「キャビア」が「ランプフィッシュ」、「フランス産シャラン鴨のロースト」が「国産合鴨」、「鹿児島産黒豚の京味噌漬け」が「米国産黒豚」など、表示と異なる食材が使用されていたことを正式に認めた。なぜ、このような事態に至ったのか。 「広告掲載しました内容と比べてボリュームが足りないことと納品の遅れは、500セットの調理と詰め込みに予想以上の時間がかかり納品が遅れるという事態が発生してしまいました。できないと判断しキャンセルの依頼をするべきところを、無理に行ったことがこのような事態を招きました」――。 問題となったおせちを製造・販売した横浜のレストラン「バードカフェ」を運営する外食文化研究所の水口憲治氏は、元日付で社長を辞任するとともに、ブログでこう説明した。一方、グルーポンも、米国本社のアンドリュー・メイソン最高経営責任者(CEO)自らが謝罪したビデオメッセージのなかで、こう弁明した。「グルーポン・ジャパンは成長が急速だったため、店舗が許容量以上のクーポンを提供することを未然に措置することが徹底できていなかった」 皮肉にも、「グルーポン」や「クーポン共同購入サイト」の名を一気に知らしめた年明けの騒動。外食文化研究所もグルーポンも、上限枚数の妥当性を検証しきれなかったことに原因を求め、騒動は沈静化へと向かっている。だが、問題の根は、別のところにある。 メイソンCEOも述懐するように、今回の騒動はクーポンビジネスの急成長と無縁ではない。成長分野ゆえの過当競争がもたらした綻びは、随所で露見しつつある。おせち騒動は、その氷山の一角でしかない。急成長の裏で、何があったのか。 ■本家とは無縁のサイトで乱戦模様 クーポン共同購入サイトの数は、国内で2010年4月に登場して以来9カ月で170を超え、累計売上高は51億円を超えた――。10年10月に参入したばかりのクーポン共同購入サイト「LUXA(ルクサ)」は1月17日、こんな独自調査の結果を公表した。まさに百花繚乱(りょうらん)のクーポン共同購入サイト。その源流は、世界最大手の米グルーポンにある。 メイソンCEOが中心となってサービスを開始したのは08年11月。街のレストランから博物館、ヨガスタジオまで、あらゆる商材を通常価格から50%以上も割り引いたクーポンに変え、売りさばいた。 クーポンが有効になるためには、50なり100なりの最低成立枚数をクリアしなければならない。だから、いち早く購入したユーザーは、成立させるための先兵となって「Twitter(ツイッター)」や「Facebook(フェイスブック)」を通じて宣伝に走る。クーポンの情報は半自動的に数億人が集うソーシャルメディアへと流れる仕組みだ。グルーポンはこうした爆発的な口コミの威力を得て、ウェブ史上最速と言われるスピードで成長を遂げた。 創業から1年半もたたない10年春、アナリストはグルーポンの通期売上高を3億5000万ドルと推測し、投資家は企業価値を13億5000万ドル以上と評価した。クーポンサイトが国内でも勃興し始めたのは、ちょうどこの頃である。ただし、当初は米グルーポンをまねて始めた、本家とは無縁のサイトがひしめき合っていた。 10年4月20日、ホテルやレストランの会員制優待サービスを手がけていたベンチャーが「Piku(ピク)」をオープンすると、日本での“クーポンレース”の火ぶたが切られた。5月には楽天出身の創業社長が起こした「KAUPON(カウポン)」が参入。6月にはネットプライスとデジタルガレージが共同で運営する「Qpon(キューポン)」、独立系ベンチャーによる「ミナワリ」「GOTi(ゴーチ)」と新規参入が続き、一気に乱戦模様となっていった。 グルーポン・ジャパンの前身、「Q:pod(クーポッド)」が立ち上がったのはその直後。リクルートが「ポンパレ」というクーポンサイトを立ち上げたのと同時期の10年7月である。ただ、クーポッドは6月に設立されたばかりで、知名度はないに等しい。にもかかわらず一気に先頭集団を追い上げ、サービス開始からわずか1カ月半という短期間で米グルーポンへの身売りを決める。年末にはクーポンサイトでトップの座に君臨していた。 国内147サイトのクーポンを横断的に検索できる情報サイト「クーポンジェイピー」を運営するシープジェイピー(栃木県大田原市)によると、10年12月にグルーポンが販売したクーポンの総額は、推定で11億4147万円。2位で同5億8410万円のポンパレを大きく引き離し、3位以下を寄せ付けない。おせち騒動は、このスピード出世のさなかで起きた。 ■営業力と資金力を兼ね備えたクーポッド クーポッドを共同で設立したのは、パクレゼルヴ(東京・港区)と、独立系ベンチャーキャピタルのインフィニティ・ベンチャーズLLP(有限責任事業組合)。パクレゼルヴは、廣田朋也社長兼CEOが光通信、クレイフィッシュを経て、05年に独立・起業したベンチャーで、インターネット回線の訪問販売やモバイル向けコンテンツなどを手がける。廣田社長と瀬戸恵介専務取締役は、それぞれクーポッドの会長と社長に就いた。 一方インフィニティは、08年設立と歴史は浅いが、人気ソーシャルゲーム「サンシャイン牧場」を提供している中国Rekoo Mediaなど、ソーシャルメディア関連のベンチャーへの投資で実績がある。IT・ネット関連企業の経営層、数百人が一堂に会する招待制のイベント「インフィニティ・ベンチャーズ・サミット」を主催していることでも知られる。クーポッド設立時の投資金額は約2億円。すぐに追加投資枠として3億円を用意した。 パクレゼルヴの営業力を駆使してクーポン掲載店舗の開拓を進め、それをインフィニティが資金力で後方支援するという両輪の体制。首都圏向けのクーポンサイトが多いなか、クーポッドは当初から「3カ月で全国15都市に展開する」としており、早くも8月2日から東京・神奈川に加えて大阪と福岡向けのクーポンを開始している。「力業」で多くの利用者も惹きつけた。 「ついにやってきました!待望のiTunesカード1500円分!なんと☆300円☆で手に入るビッグチャンス!80%OFFの破格値は見逃せない!」――。 7月20日午前0時、クーポッドに登場した破格のクーポンは24時間で1万人に売りさばかれた。クーポンを提供したのはアップルではなくクーポッド。値引き分に加えて、商品の送料もクーポッドの負担。広告宣伝を狙った持ち出しの大盤振る舞いにネットのユーザーは飛びつき、ツイッターのアカウントには1万人以上のフォロワーが集まった。こうした実績を引っ提げ、クーポッドの生みの親であるインフィニティは、米グルーポンとの交渉につく。 ■テレビCMとネット広告で大量集客 10年夏。この頃になると日本のみならず、世界中でグルーポンの「クローンサイト」が立ち上がっていた。世界進出を狙う米グルーポンは、ゼロから各国法人を立ち上げるよりも現地のクローンサイトを買収した方が手っ取り早いと判断、10年5月に欧州のクーポンサイト大手Citydealを傘下に収め、サービス提供地域を北米2カ国から一気に18カ国まで拡大するなど、各地での買収戦略を進めていたところだった。 米グルーポンからの出資を得れば資金がさらに潤沢になり、世界最大手のブランド力も生かせる。パクレゼルヴとインフィニティにとっては保有する株の価値が上がり、投資としてのうまみも出る。クーポッド設立からわずか2カ月強、サービス開始から1カ月半の8月18日、増資を引き受けた米グルーポンがクーポッド株の過半を得て、傘下に収めることが明らかとなった。ここから、新生グルーポン・ジャパンの成長は、さらに速度を増す。 9月1日に米グルーポンと同様の画面デザインに切り替え、10月1日に社名を変更すると、シカゴを皮切りに一気に全米に展開した米本社を追うように、全国展開を急いだ。サービス提供地域は年末までに全国47都道府県・82地域まで拡大、同時にクーポンを開拓する地域拠点も大阪・名古屋・福岡と増え、年末までに7カ所以上となった。広告を駆使した集客も忘れない。 「あら〜、グルーポンを知らないなんて失礼しちゃうわ。驚き〜」――。10年12月、タレントのマツコデラックスが「ルビー」という独自のアニメキャラクターに扮(ふん)し、“おねえ言葉”でまくし立てるテレビCMが全国で放映された。それ以上に、グルーポンを強烈に印象づけたのは、同時並行で大量に展開されたネット広告だ。 「どのサイトを見てもグルーポンの広告だらけ。ここまでネット上をジャックした広告展開は見たことがない。いったい、どれだけのコストをかけているのか……」。競合する大手クーポンサイトの担当者がこう漏らすほど、あらゆるバナー広告、テキスト広告をグルーポンが占拠した。 面の展開に大量集客。当然、急拡大した器に見合うだけの「物量」を用意しなければならない。飲食店などと交渉し、クーポンに変えていく「営業部隊」もまた、急拡大していた。 ■国内競合と海外グループ各社、二重の熾烈な競争 「全世界のグルーポングループのノウハウや実績を日々、共有しながら、この数カ月のあいだ、とにかく短期間のなかで振り返っている暇もないほど、できることをやってきた」「昨年末は、毎週50人、60人が新しくグルーポンに入っている。あまりにも成長スピードが速いため、採用計画が先まで決まっているわけではない。各種指標は常に上方修正している」 グルーポン・ジャパンの渡邉執行役員がこう話すように、「1地域1日、最低1クーポン以上」を公約に掲げていたグルーポンは、すさまじい勢いで営業担当を採用してきた。7月のサービス開始時、わずか20人ほどだった従業員数は、10月で約200人、年末には約700人まで膨れたという。その多くが、営業に従事する者だ。 営業部隊は、情報誌やホームページなどで情報収集し、クーポンの提案ができると踏むとすかさず電話でアポイントメントを申し込み、訪問した。競合他社とかち合うことが多いなかで、次々と新規の契約を獲得し、グルーポンが「業界ナンバー1」として謳う「割引総額40億円突破(12月16日現在)」「クーポン販売枚数75万枚突破(同)」などの実績を積み上げた。 他方、世界のグルーポン各社は、「グルーポン・ワールドカップ」という名の下、各国法人の経営指標が常に比較され、随時、本社から上方修正を求められるという。国内と海外という二重の熾烈(しれつ)な競争にさらされたグルーポン・ジャパン。このなかで、商品のチェックがおろそかになっていた。最たるものが、「上限枚数の妥当性」だ。おせち騒動は、その一例に過ぎない。 ■ほかにもあった上限枚数をめぐるトラブル 「本件につきましては、クーポン企画の段階で、1日にご提供できるメニューの数に限りがある旨を弊社担当と店舗様の間で確認しておらず、双方の間で認識相違があるまま販売に至ってしまった事、販売によって、店舗様がどれほど混乱するかといった双方の予測が、大変甘いものであった事が要因でございます」 11月下旬にグルーポンで販売された、名古屋のハンバーガーショップのクーポンのページを見ると、こんなおわびが掲載されている。「ハンバーガーとドリンクとポテトのセットが54%OFFの500円」というクーポンは、24時間で2646枚も売れた。告知内容には「予約不要」とあり、上限枚数は設定されていなかった。だがのちに、当該商品は1日30食限定であることが判明した。 「6月まで使えるクーポンを購入したにも関わらず、昨日電話をしたら6月まで予約がいっぱいで断られました。期間延長なのか、返金なのか早急に対処して下さい!」。今年1月には、ツイッターでこんなつぶやきがグルーポンのアカウントに向けて投稿され、話題となった。 こちらも名古屋で、「ひとよし」という居酒屋が提供した、「馬刺しや馬しゃぶが食べられるコースと飲み放題がついて68%OFFの2980円」というクーポンが問題となった。販売されたのは1365枚。ひとよしは「グルーポン枠の席数を大幅に超える数が売れてしまい、とてもさばくことができない」として、グルーポンにキャンセルを申し出た。 ■「上限枚数の説明はなかったし、勝手に販売期間を延長された」 これらについてグルーポンは、返金処理をするなどの対応をしているとする。渡邉執行役員は取材にこう答えた。「店舗へのヒヤリングで席数や処理能力はちゃんと聞いているが、『いけるだろう』ではなく、より確実に提供できる枚数を設定しなければならないと意を新たにしている」。「いけるだろう」という甘い判断だった、と言ってしまえばそれまで。だが、実態はそれほど生易しい話ではない。 「僕はインターネットのことなんか、何もわからないし、グルーポンの営業担当が元飲食業界出身で詳しいと言うから、すべてお任せでやってしまった。無知でバカな自分が悪いんです。でも、グルーポンから上限枚数の説明はなかったし、クーポンの売り出しは24時間という約束だったのに、勝手に『ご好評につき』ともう1日追加されていた」――。 1365枚を売ったひとよしの清水一哉店長は、そう堰(せき)を切ったように語った。「タダで広告が出せて新規顧客も獲得できる」。そんな営業担当の甘言に、清水店長は乗った。が、気がつけば予約の電話が鳴りっぱなしでパニック状態。「ノイローゼになりそうだった」。懸命に200人ほどのクーポン客を受け入れたが、残るは1000人以上。日ごろの客の相手もできず、やっつけ仕事になっていくのは目に見えた。だから、返金処理をしてもらうよう申し出ざるを得なかった。 グルーポンの返答は、「すべてひとよしの責任ということにしてグルーポンとの取引内容を口外しないのであれば、キャンセルを受ける」というもの。清水店長は「お客さんに申し訳ない」という一心で承服し、沈黙を守った。だが時間が経つにつれ、憤りが募る。「同じトラブルは僕らだけじゃないと知って頭にきた。会社ぐるみで強引な営業をしていたということ。事実を隠そうとしたことにも腹が立って、ぜんぶ話すことにした」 おせちとは別のところで起きた上限枚数のトラブル。その背景には、店舗の事情を顧みないグルーポンの強引な営業があった。この問題は、返金処理をすれば済む話かもしれない。だが、強引な営業姿勢はさらに大きな問題へと発展しかねない危うさをはらむ。 ■「通常価格での販売実績があるとは認められないおそれ」 「本当に2万1000円の価値があるのか」。おせち騒動は、価格の妥当性という意味でも議論が巻き起こった。宣伝や告知において、実際の商品より著しく良く見せかける「優良誤認」は、景品表示法で禁じられており、措置命令の対象となる。また、実際に通常価格で販売した実績がないのに「半額」などと謳って販売することは、景表法の「二重価格」にあたり、違法だ。 おせちの通常価格ついて、グルーポンは1月29日に公表したプレスリリースにこう記した。「通常価格として表示するためには、『最近相当期間にわたって』の販売実績が必要であるにもかかわらず、本件商品に通常価格として表示された価格での販売実績があるとは認められないおそれがあることが判明いたしました」 公正取引委員会によると、通常価格として認められるには「8週間、あるいは商品を販売した期間の過半での通常価格での販売実績が必要」という。グルーポンは今回、このチェックができていなかったことを公に認めたうえで、プレスリリースにこうも記した。「弊社は、本件商品の製造・販売者ではございませんが、本件商品の販売に関与した者としての社会的、道義的責任を重く受けとめております」 あくまで責任の所在は外食文化研究所にあるかのような表現。だが、クーポンを販売しているサイトがグルーポンである以上、商品の表示に関する責任はグルーポンにもある。景表法や独占禁止法に詳しいアンダーソン・毛利・友常法律事務所の植村幸也弁護士は、こう指摘する。 「たとえば、百貨店が『カシミヤ100%』ではないものをそう表示して販売した場合、百貨店が知らなかったとしても責任を問われる。おせちの場合は、表示内容の作成にグルーポンが実質的に関与したと判断されれば、外食文化研究所とともにグルーポンの責任も問われる可能性がある」 ■価格の強調を禁じた医療法に抵触する可能性も 法令違反の疑いは、景品表示法以外にもある。グルーポンにはエステや痩身、脱毛などクリニックが提供する商品も多数存在し、なかにはこう表記されたクーポンのように、医療行為を謳ったものがある。 「脱毛が初めての人でも安心 医療レーザー脱毛 両ワキ5回 通常52,500円⇒驚きの【98%OFF】⇒GROUPON価格【1,050円】」「両ワキ、ヒジ下、ビキニラインなど……お好きなコースを選べる医療脱毛 最大80%OFF【25,000円】」 あるネット業界の関係者は、これらを「医療法における広告規制に抵触している可能性がある」と指摘する。実際はどうなのか。クーポンの内容を見た厚生労働省の医政局総務課は、こう回答した。「価格を強調しすぎている点などで、医療広告を規制する医療法第6条の5に基づく指針に抵触する可能性がある。指導権限を持つ各自治体は、十分に注意を払うべきだ」 厚労省の判断はグレー。だがグルーポンはこの件について、「医療広告規制は承知しており、現状は、弁護士と相談したうえで合法だと判断し、掲載している。そもそもクーポンサイトの表示が広告にあたるのか。新しい分野なので、そうとは言い切れないところもある」(渡邉執行役員)とする。 おせちの価格の問題についても、植村弁護士が「本来は表示どおりのものを提供するつもりで一生懸命やったけれど、結果として提供できなかったという場合は、違反とならないケースもある」と指摘するように、おとがめなしの可能性もある。ただ、景表法の販売実績についての理解が足りなかったことを露呈しており、法令順守に対する認識が甘いと言われても仕方がない。そして、上限枚数の問題と同様、ここでも強引な営業姿勢の影がちらつく。 都内で2つの飲食店を営むあるオーナーは、昨年の秋頃から「1日に5、6件、あらゆるクーポンサイトから営業の電話がかかってくるようになった」と話す。そのうちの1社、グルーポンの営業担当と会ったのは10年11月。山手線沿線の主要駅からほど近い歓楽街に位置する店舗の「食べ飲み放題コース」を格安のクーポンにしたいという申し出だった。 ■「伸び盛りの企業にありがちな荒っぽい営業」 もともと、食べ飲み放題コースの価格は4000円程度と低めに抑えてあるが、それを半額で提供しないか、という提案。グルーポンは通常、クーポン販売価格の50%を手数料として得ている。つまり、店舗には通常価格の4分の1しか渡らない、ということになる。オーナーが「広告と割り切っても、さすがにあり得ない」と固辞すると、グルーポンの営業担当は「手数料をどんなに引いても40%ですが、特別に25%まで下げます。内密にしてください」と返したという。 それでも、店舗に残るのは1クーポンあたり1500円ほど。「論外だ」とはねつけると、今度はこう食い下がってきたとオーナーは話す。「では、食べ放題の内容を少し変えた新しいコースの定価を6000円に設定し、その半額でクーポンを出しましょう。手数料は25%でいいです」。さらに、定価については「店内のメニューに載せなくても、売った実績がなくても、既成事実があればいい」とし、リクルートのタウン情報誌に6000円のコースを掲載するよう勧められたという。 この案だと、店舗側の手元に入るのは2300円ほど。オーナーは「利益は出ないが、経費はまかなえるライン。広告効果を考えるとやれないこともなかったが、最終的に断った」と話し、こう続けた。「既存のメニューをちょこっと変えて定価をかさ上げして、というのはできない。既存のお客さまに対して整合性が保てないような商品を売るのは、商売としてはおかしい。やってはいけない」 グルーポンの営業姿勢に憤るオーナーは、こんなエピソードも明かした。「若い担当がグルーポンの審査部とのやり取りの社内メールをこちらにも送って来たりした。そこには、審査部の人間が『値段が高いから下げろ』というようなことを書いていて、無礼だと感じた。伸び盛りの企業にありがちな、荒っぽい営業体制だった」 別の飲食チェーンの関係者は、こう証言する。「昨年の秋頃から、グルーポンの別々の人間から頻繁に電話がかかってくるようになった。ある担当者と話を進めても、それを知らない別の営業担当が電話をかけてくる。内部でアポイントメント競争をしているかのようだった」 国内外で二重の競争にさらされていたグルーポン。内部でもまた、営業担当同士の激しいつばぜり合いが存在することをうかがわせるような証言だ。そのしわ寄せが、さまざまな問題や懐疑となって表面化したと言えるのではないか。 ■「バーゲンハンターばかりで、リピートゼロ」 ただし、強引な営業や荒っぽさはグルーポンに限った話ではない。そして、上限枚数が適正であっても、法令違反の疑いがなくとも、クーポンを提供した店舗に深い傷が残ってしまうことはある。巷(ちまた)で流行るクーポンは、参加する店舗にとって本当に有益なサービスなのか。都内で5つの飲食店を経営し、ツイッターを利用した集客やマーケティングを得意とするグレイス(東京・港)の中村仁社長は、一般論と前置いたうえで、こう警鐘を鳴らす。 「マーケティングの本質は、新規ではなく、リピーターやファンをいかに増やすか。しかし、クーポンの利用客はたまたま見つけて、安いから行ってみようという『バーゲンハンター』が多数を占める可能性が高い。たとえ薄利、赤字でも、向こう数カ月、数百人、数百万円の売り上げが確定することに魅力を感じる店舗が多いのだろうが、クーポンの利用客に『2倍以上のお金を払ってでもまた来たい』と思ってもらうのは難しい」 居酒屋の「塚田農場」や「じとっこ」など、70店舗の飲食店を展開するエー・ピーカンパニー(APカンパニー、東京・港)の体験談は、この指摘を裏付ける。 10年6月から7月にかけて、APカンパニーは計3回、クーポンサイトのゴーチを利用した。ある店舗では炭火焼きやたたきが食べられる「地鶏満喫コース全8品」を78%OFFの777円で、別の店舗では「鹿児島黒牛」の霜降りと赤身の刺し身2種と生ビール2杯を79%OFFの500円で提供した。割安感からツイッターなどを介してアクセスが集中、それぞれ数時間で予定していた上限枚数に達し、計500枚を売り切った。 「ドリンクの追加オーダーなどで少しでも利益が出ればというくらいで、クーポンそのものは赤字。うちのファンになってもらうきっかけになればと思い、やってみた」。クーポンを企画したAPカンパニー企画部の松岡庸一郎マネージャーは、そう語る。しかし……。 結果として、ドリンクの追加オーダーは「ほとんどなかった」。あっても1杯だけ。お茶だけで帰る客もいた。なかには、予約時の電話で「いっさい追加はしないけれど、いいですか」と断ってくる客もいたという。松岡マネージャーは「それでも構わないが、さすがに店舗の士気は落ちた」と漏らし、続ける。 「バーゲンハンターがほとんどで、倍の値段で来てもらえる客層ではなかった。半年以上たったが、店舗スタッフの実感は『リピートゼロ』。今でも毎日のようにクーポンサイト各社から営業の電話がかかってくるが、もうやるつもりはない」 ■口コミサイトを通じて拡散する悪評 新規獲得の広告と割り切り、赤字覚悟で割安クーポンに手を出したら、逆に評判を下げてしまった――。そんな話も少なくない。 10年9月、クーポンサイト「TOKUPO(トクポ)」を利用して、「A4ランク国産牛ヒレステーキ」に野菜のグリル、ワンドリンクが付いた通常4800円のコースを79%OFFの999円で提供した東京・目黒区の飲食店。グルメ情報サイト「食べログ」のページをのぞくと、クーポン利用客からの手厳しいコメントが口コミの欄に並んでいる。 「ドリンク付きとはいえ、いいとこ1500〜2000円分くらいの価値にしか感じられない」「グラスワインの値段に驚愕。1杯1200円だって。ビールも小さめのビールグラスで、800円」「春は桜が綺麗で良いお店だと思いますが、二度と行かないなー」「なまじクーポンビジネスに手を出さなければ少数の顧客相手に安定経営を続けられたのに、かえって『食べログ』を通じて店の悪評を広める結果になったのではないか?」……。 このクーポンもまた、値ごろ感からツイッターなどのソーシャルメディアを通じて広まり、一気に上限の1050枚が売れる人気商品だった。が、その結果は散々と言わざるを得ない。悪評もまた、ソーシャルメディアを通じて一気に広まってしまう時代。上記のエピソードは、店舗が求める顧客層とクーポンの利用客とのミスマッチが顕在化してしまった悪い例と言える。 ■本当に「三方よし」のビジネスなのか 確かにクーポンサイトによって救われた店舗や、喜ぶ利用客が多数存在することも事実。グルーポンの渡邉執行役員は言う。「運営、店舗、ユーザーの三者、みんながハッピーになれるビジネスモデル。どこか1つだけが得をするモデルではない」 しかし、前出のひとよしの清水店長はこう語る。「僕らサービス業は、今が一番苦しい時期。でも、クーポンをやって得をしたのはグルーポンだけで、僕らは使い捨てにされたような気分。やりっぱなしで、フォローもない。このままでは、焼き畑にされる」 消費者も距離を置き始めた。前出のシープジェイピーによると、1月に国内147サイトが販売したクーポンの総額は前月比16%減の18億7031万円。グルーポンの販売総額も前月比14%減の9億8385万円と縮小した。「正月休みという季節要因に加えて、おせち問題の不信感がまん延し、業界全体に尾を引いている」。シープジェイピーの担当者は、そう指摘する。 グルーポンは、クーポンの審査をより厳格化するとともに、審査の一部を消費生活団体など外部組織に委託する準備を進めているとする。上限枚数や表示価格が適正か、各種法令に違反していないかは当然のこと、本当に「三方よし」のビジネスなのか。これを機に兜(かぶと)の緒を締め、真剣に検証する時期が訪れたのではないか。 業界をけん引する盟主だからこそ、グルーポンに課せられた責任は重い。 (日本経済新聞) http://www.nikkei.com/tech/business/article/g=96958A88889DE0E0E4EAEBE7E2E2E2E0E2E0E0E2E3E3E2E2E2E2E2E2;dg=1;p=9694E2EBE3E3E0E2E3E2E1E7E2E4 http://www.nikkei.com/tech/business/article/g=96958A88889DE0E0E4EAEBE7E2E2E2E0E2E0E0E2E3E3E2E2E2E2E2E2;dg=1;df=2;p=9694E2EBE3E3E0E2E3E2E1E7E2E4 http://www.nikkei.com/tech/business/article/g=96958A88889DE0E0E4EAEBE7E2E2E2E0E2E0E0E2E3E3E2E2E2E2E2E2;dg=1;df=3;p=9694E2EBE3E3E0E2E3E2E1E7E2E4 http://www.nikkei.com/tech/business/article/g=96958A88889DE0E0E4EAEBE7E2E2E2E0E2E0E0E2E3E3E2E2E2E2E2E2;dg=1;df=4;p=9694E2EBE3E3E0E2E3E2E1E7E2E4 http://www.nikkei.com/tech/business/article/g=96958A88889DE0E0E4EAEBE7E2E2E2E0E2E0E0E2E3E3E2E2E2E2E2E2;dg=1;df=5;p=9694E2EBE3E3E0E2E3E2E1E7E2E4 http://www.nikkei.com/tech/business/article/g=96958A88889DE0E0E4EAEBE7E2E2E2E0E2E0E0E2E3E3E2E2E2E2E2E2;dg=1;df=6;p=9694E2EBE3E3E0E2E3E2E1E7E2E4 |